名探偵本夢写楽

プロローグ

「全員そこを動くな!」 写楽が叫び、和渡、八戸、須藤は動きを止めた。 テーブルには亜土愛理が苦悶の表情を浮かべ、倒れ込んでいる。 写楽は愛理の脈をとり、口に顔を近づけ匂いを嗅いだ。続いて愛理が口を付けたティーカップをハンカチで挟み持ち上げる。飲み口を指でなぞるとおもむろにその指を咥えた。 「ペロッ……こ、これは、青酸カリ!」 写楽はカップを元に戻すと、プルプルと体を震わせ他の三人と向き合った。 「これだ!これを待っていたのだ!さぁ、名探偵写楽様がこの事件の真相を暴いて見せよう!」 高らかな宣言と大げさな身振りと共に、朗々と写楽の解説が展開されていく。 「妖艶なる亜土愛理氏は、青酸カリにより殺害された!それが証拠に彼女の口内からは微かなアーモンド臭ーーこれは青酸カリと胃酸が溶け合った事により青酸ガスが発生したことに起因している!さらに彼女のティーカップには青酸カリ特有の金属の……うぐっ、ぬご、ぬごぉぉぉぉぉ!」 写楽は突然うめき声を上げてテーブルの上に倒れ込み、もがき苦しみ始めた。写楽の動きに合わせてテーブルの上に並んだ食器が音を立てて割れていく。 やがてピクリとも動かなくなった写楽と共に静寂が辺りを包む。 和渡、八戸、須藤の三人はお互いに顔を見合わせて、誰かが喋りだすタイミングを見計らっていた。

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