名探偵本夢写楽

※以下はあなただけの秘密の記憶です。ゲーム中に他のプレイヤーに知られないようにしてください。

和渡宗の秘密

偽装カルテ。 医者としてやってはならない事。しかし、それを求める者がいて、なにより金になる。 「これなーんだ」 写楽はそう言いながら私の目の前に1枚の紙きれを見せた。一瞬、全身の血の気が引くのがわかる。 偽装カルテのコピーだ。 狡猾で周到な彼は大事そうにそれを懐にしまうと、代わりに別の紙を置いて去っていった。 幾枚かの請求書。ここから私と彼の絶対的立場が確立した。 そもそも写楽とは学生時代からの付き合いで、その頃から彼の奇行ぶりは有名であった。小学生の頃に読んだシャーロックホームズ全集に感銘をうけ、アナーキーでエキセントリックな言動こそ正義という間違った解釈をしてしまったのが原因らしい。ホームズのみならず、様々な探偵小説を読みあさっては、奇抜な行動を真似し、自己満足に浸るという、少々恥ずかしい、いや、困った奴だった。 そんな彼に弱みを握られ、無言の脅迫を受けている。初めのうちは飲み屋の請求など可愛いものだったが、そのうちに賭博の肩代わりなど、見境がなくなってきた。 写楽に注意を促そうとするが、その度彼は胸の内ポケットの上を軽く叩き、醜い笑みをこぼすのであった。 彼を殺すしかない。 彼の性格上、おそらく一生私を下僕扱いするつもりだ。彼との関係にもほとほと嫌気がさしていた……。 職業柄、青酸カリの入手は困難ではなかった。彼の探偵事務所ぐらいでしか彼と接触する機会はないが、ここで殺すのはまずい。万年閑古鳥の探偵事務所で、出入りするのは私くらいとあれば、真っ先に疑われてしまう。 どうしたものかと思案していると、ある女性からパーティーに誘われたので一緒に来て欲しいと彼から頼まれた。 「おそらく彼女は私の命を狙っているんだ」 そう、うそぶく写楽。 人の弱みに付け込む彼の性格からいくと、あながち間違ってはいないのだろう。 丁度いい。彼の命が狙われているのならば、そこで彼が死んでも問題なかろう。 私は液状にした青酸カリの小瓶を大事にしまうと、写楽と共にタクシーに乗り込んだ。

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