STORY
プロローグ White BOX
――白。
意識を取り戻した時、あなたは真っ白な中にいた。
空からポンとケーキ箱を被せられたみたいに隔絶された箱庭の中で、
植物のようにただぼんやりと光を感じていた。
『サイキック免許更新センターへようこそ!』
最大限の親しみやすさと、それでいてどこか胡散臭いほどのよそよそしさを含んだ音声で、聴覚を取り戻したことに気がつく。
『PSA公式マスコットのさいきぃです!更新をお待ちの皆様に、免許の仕組みについてご案内します。』
徐々に光芒が収束して、視覚が戻ってくる。喋っているのは、ディスプレイに映るキャラクターだった。
行儀よく並んだ横長のベンチ、天井からぶら下がる案内ボード……ありきたりな待合スペースは四方を真っ白な壁に囲われて唐突に途切れている。
空間の中央には白衣を着た男性が倒れていて、背中には大きく裂けた傷跡が見える。リノリウムの床に、生々しい血だまりができていた。
死体を囲むように、あなたを含めて5人の男女が虚ろに座り込んでいる。
『サイキック免許更新センターへようこそ!』
唐突に、強い感情が胸中を襲った。
短い悲鳴を上げて怯える者、息をのんで慌てだす者……5人それぞれが、突然スイッチが入った玩具のように動き出す。溢れだす感情と状況が噛み合わず、あなたは狼狽えて立ち上がった。
「……ここは一体どうなっているんだ?」
――記憶がない。
もてあますほどの激情は、記憶を失う直前、確かに自分が感じたものだという確信。
その他には、かろうじて自分の名前を思い出せただけだった。
必死に記憶を辿っても、自分が何者なのか、何故ここにいるのか、まるで思い出せない。
『サイキック免許更新センターへようこそ!』
閉ざされた箱の中で、場違いに陽気な機械音声が繰り返し響いていた。